火曜日ににLSEの客員研究員でA-levelの社会学のカリキュラム作りにも携わっているDr. Steve Taylorが僕のカレッジに講演しにきてくださいました
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この講演はDr. Taylorが一方的に話すものではなく、対話型(イメージで言うとマイケル・サンデルの白熱教室みたいな感じです。)で、時折、生徒の意見や質問なども交えながら進行していきました。
もちろん主題は社会学と犯罪の原因及びに背景分析なので、それに沿って、社会学的な犯罪論、犯罪の新たな形(グリーンクライムやホワイトカラークライム)、そしてそれらを証拠づけるためのリサーチメソッドについて講義を中心に、午前と午後で丸一日使って熱い議論が交わされました。
僕が特に関心を持ったのはグリーンクライム(環境に対する犯罪)で、Dr. Steveによると、まだまだ発展途上な研究領域ということでした。これらの犯罪は、多くの場合大企業、強いては国家によっておかされる犯罪であり、有名な例で言うとインドのボパール事件、メキシコ湾のBPの石油漏洩問題、そして我らが日本の東電による福島原発事故などがあります。
ここで気をつけないといけないのは、これらが一応「犯罪」と分類されていても、法律で裁くことが出来るとは限らないということです。福島原発事故を例にとってみても、明らかに東電の過失があるのにも関わらず、経営陣は刑事的告訴されていません。(民事裁判は進んでいますが、それでも現実的に責任を追及するのは難しいでしょう。)
それにホワイトカラークライム(エリートや社会的地位の高い人がおかす犯罪)についても法律の境界線は非常に曖昧です。リーマンショックのとき一番被害を食らったのは誰か。それはアメリカでも、他の国でも比較的社会的に弱い立場にある人々でした。実際に責任のある金融エリートたちは、公的資金をたっぷりつぎ込んでもらい、何の刑事的責任を取ることもなく、再び高収入を手にしています。(彼らのやったことは詐欺と同等ですが。)
つまりここでのポイントは、法律そのものが有史以来、万人による万人のためのものではなく、一部のパワーエリートたちによって作られた、彼らに都合のいい紙切れにすぎないということなのです。
さらにDr. Taylorは話を発展させ、僕たち生徒が「犯罪」と聞いて何を思い浮かべるか、「犯罪者」と聞いて誰を思い浮かべるかを問いました。そこで僕たちは言われてみれば、僕たちがイメージする犯罪、犯罪者は圧倒的に社会的に弱い立場の人々が加害者にも、被害者にもなりやすいと気がつきました。(誰が泥棒しますか?誰が強盗しますか?)
実際には投資会社は、食物の価格を投機によって高騰させ、何百万もの命を間接的に奪い、ウォールストリートの住人は相変わらず、お金を持った老人たちをだまし続けているのにも関わらず、です。
こうした問題は本当に深刻で、意識していなければ気づくことすら出来ません。そして幸いなことに、僕はそうした社会の重大な問題点に対して、社会学的見地からアプローチする機会を頂きました。
やはりイギリスのすごいところは、このような複雑かつ深刻な問題に対しても、18歳やそこらの高校生たちに、疑問を問いかけ、自分の頭で考えさせることです。
そしてそれこそが、歴史上全ての「日の沈まない帝国」と呼ばれた国々が現在没落しているのにも関わらず、イギリスが国際的な存在感を維持できる大きな理由なのです。
日本はかつて「日の出ずる国」と呼ばれ、それが今の国名の由来にもなっています。僕は本当に心から、自分の母国が「日の沈む国」にならないことを祈っています。